迫りくる変化への必要性に対して臆病になるときがあります。
私は海外を転々としており、現在はイギリス在住。好きで「根無し草」になった訳ですが、この不安的な生活や起こりうる変化に対して恐怖を感じることがあるのです。
「変わること」を前にして、すくんでしまうのはやはり本能なのでしょうか。変化への怖れを取り払うにはどうしたら良いのでしょうか。
今回は、変化を乗り越えるためのメンタリティを探るべく、以前取材させていただいた2017年より活動スタイルがガラリと変わった『プロ無職 るってぃ』さんに改めて取材をさせていただきました。
当時のるってぃさんの活動を端的に言うと、旅や本を中心としてインプットしたものを、SNSとブログでアウトプット。学びを具体化させ、受信側にわかりやすく発信。
それに対しての最近の活動では、ブログの量産をストップ、SNSは辞めることリストの中に入っています。また、新しく始めた「ポエトリーリーディングと絵画」では、わかる人にのみ伝えていくクローズドされたコミュニケーション。
急な活動スタイルの切り替えには、想像し得る未来を破壊したくなる衝動と、目標に忠実であることで必要となった変化への受け入れ、変化自体をストーリーの一部として楽しむことに理由がありました。
Contents
予想できる未来は破壊し、想定外の自分へと変化していく
タイトル「HIZUMI」
世界は歪んでる
希望、正義、愛情、欲望、恐怖、憤怒、焦燥、慈悲
あらゆる感情が渦巻いて歪みゆく世界を表現しました pic.twitter.com/HaPPlh0ayz
— るってぃ/プロ無職 (@rutty07z) May 16, 2019
るってぃさんが、ポエトリーリーディングと絵画という、アーティスト活動に意識が向いたのは、2017年に行ったクラウドファンディングで約103万円の支援を受け、ヨーロッパに1ヶ月渡航したとき。ヨーロッパでアートに触れる機会があったことにより、芸術の存在意義を悟ったのだとか。
るってぃ:芸術とかスポーツとかは、暇じゃないと作れない。昔の人は時間があったから、絵を書いたりすることに皆んなが集中できたんだよね。
対して、現代人は働きすぎで忙しくて、そういう生きていく上で必要とならない芸術みたいなことって全然やってない、っていうのに気づいた。
2年前に取材させていただいたときも、仰っていた「芸術は暇じゃないと作れない」ということ。その考えと同時に、プロ無職だからこそできる言葉を使わない発信方法について、「世界に行く」という幼少期からの夢を達成するために、常に頭のどこかで意識していたという。
「芸術」と「世界にいく」というアイディアを背景に、発信活動を続け順調な日々を歩んでいた、るってぃさん。2018年には、運営していたオンラインサロンメンバー専用のシェアハウスができたり、活動にスポンサーがついたり、サロンメンバーに仕事を外注し始めチームができた。
しかし、順風満帆だった自身の活動に、2018年の8月くらいから違和感を感じ始めたのだとか。確かに、物事が上手く進んでいるからといって、私たちは人生に対して悩まない訳ではない。自分の中にある芯とズレが生じてくると、気持ちが行動に伴わなくなってくる。
るってぃ:昔から、未来が見えた瞬間に全てを破壊したくなるっていう癖があって。
このまま有名になって、テレビやラジオといったメディア出演がくるっていう人生の正解のようなものが見えたら、やっていることが『無』に感じた。
予想外に起きる何かを見たくてフリーランスになったのに…って疑問が湧いたんだと思う。それから、自分の活動に対してモヤモヤしだした。
正解へのレールが見えたけど、自分がフリーランスになって求めていたものと違うという疑問が出てきた。このままではダメだという焦燥感は、新しい何かへと自分を押しやる。変化するのは怖いことだけど、本当はこのまま変わらないことの方が、もっと怖いことなのかもしれない。
死を回避するために頑張るTwitter
日銭を稼ぐためのそれっぽい言葉
そこから出る言葉になんの意味はあるのか抽象よりも論理で想いよりも分かりやすさで感情の揺れ幅じゃなくていいねの数で測られて気づけば脆い言葉を発していた
るってぃさんが違和感を感じた原因は、彼自身を取り巻く環境が変わったこともあったそう。
るってぃさんのような「普通ではない人生」を目指して多くの人が、彼の真似をした。「誰かが常に自分を模倣している」というその感覚が、画面の向こうにいるその「誰か」と差別化しなくてはいけない、というプレッシャーとなり、彼をまた次のステージへと引っ張っていったのだ。
変わりゆく環境と思考に溺れることなく自己をアップデートさせていく
タイトル「咆哮」 pic.twitter.com/yuTF6n4FZn
— るってぃ/プロ無職 (@rutty07z) April 16, 2019
釈然としない気持ちが続いていた中、再びヨーロッパへと一人旅に向かったところ、たまたま足を運んだ、スペインのピカソ美術館で再び芸術に触れたるってぃさん。
るってぃ:芸術家の年齢や時代背景から受けるインスピレーションがあって絵が変化していく、画家自身の変化が面白いことに気づいたんだよね。
単純に一枚の絵に価値があるだけでなく、アーティストの人生そのものが芸術なんだ、って。
芸術という領域にさらにインスパイアを受けたヨーロッパから帰国後、ミヤモリハヤトさんの個展に足を出向き気づいたことがあったとか。
ミヤモリハヤトさんは、プロのブロガーとして名を馳せたのち、ラッパーへと転身。しかし、ラッパーとしての活動は長く続かず、2017年の10月より画家へと活動を変更した。
るってぃ:ミヤモリさんがSNSに投稿した、初めて描いた絵も覚えているんだけど、正直全然上手いと思わなかった。
でも、半年くらい書き続けていたら、徐々に上手くなっていくのがわかって、見にいった個展ですごい感動したんだよね。
ミヤモリさんは、ブログで月何万円の収入があったはずなのに「ブログからお金を稼ぎたくない」っていう気持ちから、書いた記事も全部消して、アルバイトしながら絵を描いているらしいんだよ。
フリーランスやプロ無職から見たら、バイトをすることって不自由に感じる。やりたくないことをやっているはずなのに、なぜかミヤモリさんが誰よりも自由に見えたんだ。俺も「じゃあ絵を書いてみようかな」ってそのとき思った。
「好きなことを仕事に」
この謳い文句で自由になれると思っている人が多い一方、この言葉に押しつぶされていく人も少なくない。本当の意味での自由を得るためには、好きに忠実になるのだけではなく、変わっていく環境や思考に対して常に自分をアップデートさせていく必要があるのだろう。
るってぃさんは、人からどんなに注目を浴びても、クラウドファンディングで資金調達に成功しても、海外を飛び回ったとしても、本当の自由が奪われていく感覚があった。「正解が見えると破壊したくなる」という、るってぃさんの癖は、自分を縛るものを遠ざけ、より自由になるために本能的にしてしまうことなのかもしれない。
おれはまた、ひとつ自由になる。
死を持ってお前の言葉が走り出すのか
死をもってお前の言葉は忘れ去られていくのかもう嘘はつかない
死を回避するためにアートなんかしない
数字のための言葉を発しないおれは死んでもなお生きるために
明日も明後日も叫び続けるから
落ちたときも、跳ね上がったときもストーリーの一部。変化の先を常に想像しておく。
新作「はじまり」 pic.twitter.com/C1ja55ZhWc
— るってぃ/プロ無職 (@rutty07z) May 5, 2019
るってぃ:絵を書き始めたときくらいに「音楽と言葉をうまく融合させられないかな」って考えが浮かんだんだ。
講演会やイベントで喋ることは多いから、DJを呼んで音楽かけてもらいながら喋るというのをやろうか、と思って調べ始めた。
音楽をバックに喋るっていう講演会スタイルは見つからなかったから、自分がやろうかなって思ったんだ。そのスタイルへの構想を練る中で「それってポエトリーリーディングじゃん」って気づいたんだよね。
ラッパーの不可思議/wonderboyが好きなことから、ポエトリーリーディングの存在は元々知っていた、と仰るるってぃさん。ポエトリーリーディングの存在に気づき行動に移そうとと思っていた矢先に、るってぃさんは詩人の方と出会い、その人の誘いで初めてのポエトリーリーディングの舞台に上がることになる。
初めて絵を描いたのが2018年の12月。ポエトリーリーディングでの登壇が決まったのは、2019年1月。夏から悩み始めて、活動の方向転換をし絵を描き出したのがその年の冬だったことを考えると、半年ほど活動の方向性を悩み続けたことになる。
多くの人は、壁にぶつかり一度歩みを止めてしまうと、そのまま落ち込んでしまったり、結局現状から抜け出せなくなる。対して、るってぃさんが腐らず次のステップにいくことができたのは、最悪の状況も常に想定し、落ち込みをバネにして回復したあとまで想像を巡らせているからなのかもしれない。
るってぃ:人生いつも右肩上がりなわけがない。
いつかどこかで絶対つまずくだろうなっていうのは意識して最悪の状況も想定して生きてたから、ダウンしているときも楽しもうって思えた。
落ちれば落ちるほど、跳ねたときの勢いはめちゃめちゃ上がる。それが、人生っていうストーリーになっていくのが楽しみなのかも。
人生は上手くいくことばかりではない。SNSによって、成功者の切り取られた発信だけ見ていると、そんな当たり前のことも忘れてしまう。
変わらなくては、と思っても悶々としたまま立ち止まってしまうことがある。「これは自分のストーリーなのだ」と思い、変化が起きた後の自分を想像することで、また一歩進むことができるのだろう。もし、変化に対して恐れを感じたときは、変わらなかった自分と変わった自分を想像して比べてみるのが良いのかもしれない。
余談ではあるが、このインタビューをさせていただいた3日後、筆者は辞めようか迷っていた仕事に退職届を出した。このまま成長を見込めない職場で働き続けた自分と、ギリギリで挑戦していく自分を天秤にかけたら、挑戦する自分が勝ってしまった。
ここで落ちぶれるか、大逆転となるかはまだわからないが、すべては自分のストーリーの一部。どんな状況も楽しんでいこうと思う。
サムネイル:Reiwa/るってぃ
ポエトリーリーディング『Suchness』/ るってぃ